○部局経営方針 鹿児島県出水市
1.概要
市役所各部局がそれぞれに経営方針を策定。
ネット上に部局長名で公表。
秋には進捗状況の発表も行う。年度ごとに成果公表も行う。
2.目的
@各部の役割や使命を意識する。←経営方針を作成することが意識付けになる。
A各部の重点事務事業を明確にする。
Bアカウンタビリティーを積極的に果たす。
C部の経営能力強化。←成果を振り返ることで経営資源(ヒト・カネ)を意識。
3.これまでの経緯
・H18、3、1市2町合併。すぐに行政改革に着手。
・行革大綱の3つの柱は、
@経営型の行政、コスト意識
A自主性・自律性重視
B協働のまちづくり
これらの具現化として、部局経営方針制度を実現させた。
・集中改革プランはH18〜22までの計画。市職員を1093人から980人にする。
予算規模も215億から207億に縮小する計画。
・そこで、経営型行政運営への移行のため、この方針策定とともに
@「政策経営部」を設置した。
A各部にも部長直轄組織として「政策室」を設置した。
・また協働のまちづくりの観点から、「予算書・決算書よりもわかりやすい」目標と成果
を公表するしくみを作り、市民と双方向の情報交換を目指すこととした。
・この制度はトップダウンで行われたものではない。
市町合併時より、1年をかけて行革大綱を作る過程で、市民の声として強くあった「情
報の共有」ということを意識。行革推進委員にも市民公募委員を交え、内部にもプロ
ジェクトチームを編成。パブコメ、出前講座、メールマガジンなどあらゆる手段を使
い、練り上げた結果、政策経営部の設置と各部への政策室の設置、そして部局経営方
針の策定という要請が内部から起こってきた。
4.策定上の留意点
・目標はなるべく数値化。←実際には不慣れなこともあり、十分でない。将来的には行
政評価手法を導入することを視野に入れている。
・目標達成への具体的手段を記載。←手段と成果の混同が見られ、難しい。
たとえば道路を何m作る、というのは手段であって目標ではない。目標は渋滞の緩和
や交通安全の実現となる。
・市長のマニフェストを常に意識。
5.具体的な作業
・作業の取りまとめは政策経営部企画政策課、行政改革係が担当する。
・部ごとの作業は、各部の政策室が部長の意向のもとに指示し、進める。
・公表はHP、本庁、支所、図書館で行う。
・進捗状況の公表は10月1日現在で行う。
・結果の公表は3月31日現在で行う。
・実例
@当初版
部名 市民福祉部 部長名 ○○○○
部の役割・使命
1 思いやりと温かさが共感できる福祉施策の充実に努めます。
2 環境美化の推進、ごみの資源化・減量化を図ります。
…など6項目
部内の各課の役割
市民生活課 戸籍、住民基本台帳、…を担う。
…など各課の主な役割を明示
部の経営資源
職員等構成 正規職員244人、嘱託職員7人、臨時職員150人
予算額(億円) 253.7 内訳 人件費 17.6 事務事業費 236.1
重点推進施策
施策名:徘徊高齢者対策事業
目標値:助成件数20件を目指す
具体的な取組事項:認知症の高齢者等が徘徊した際、居場所を発見できる徘徊高齢
者位置探索システムの端末機の購入費用を助成する。
施策名:交通災害共済制度への加入者促進
目標値:加入率60%を目指す
具体的な取組事項:市内全世帯に申込書を配布するほか、転入者にも申込書を随時
配布する。また、広報紙や防災無線で加入促進を図る。
A進捗状況報告版
部名 市民福祉部 部長名 ○○○○
進捗状況報告
上半期の経営状況は、概ね順調です。特に、5月1日に第2西出水放課後児童クラ
ブを開設し、現在設置している児童クラブの待機児童がゼロとなりました。また、
交通災害共済制度の加入率…も目標にあとわずかに迫っています。…ただし、徘徊
高齢者位置検索システムについて対象世帯に紹介はしているものの助成件数が未だ
0件であることなど、課題も残っています。 市民福祉部長 ○○○○
部の役割・使命
部内の各課の役割
部の経営資源 以上3項目は当初版と同じ。ただし予算額に補正が盛り込まれる。
重点推進施策
施策名:徘徊高齢者対策事業
目標値:助成件数20件を目指す
具体的な取組事項:認知症の高齢者等が徘徊した際、居場所を発見できる徘徊高齢
者位置探索システムの端末機の購入費用を助成する。
進捗状況:助成件数 なし
上半期の取組報告:徘徊の見られる方及びその可能性のある方30人の介護者にケア
マネージャーを通じて設置あっせんと助成制度周知活動を行った。
B結果版
視察時点で、まだ結果版発表時期に到達していないので、資料なし。
6.感想
いただいた資料に、視察時間内で十分に目を通すことはできませんでしたが、こうして復命書を書くにあたり具体の報告をなぞってみると、なるほど、これを書きながら、部長以下担当者の方々は自分の部に何人の職員がいていくらの予算がつけられている、これをこの1年でどう成果に結びつけるかと、思案をめぐらしたことが想像されます。
自画自賛になりますが、私どもが予算の「枠配分」の制度導入を提唱してすでに数年、現在ではそれが実施されるにいたっております。かつて部長は、自分の部の職員がどれだけ残業手当を支給されているかについても承知していなかった。これでは、経営感覚も何もあったものではありません。出水市の取り組む「経営方針」の公表と検証作業は、これからの自治体経営のあり方として、重要な意味を持つものだと思いました。
同時に、私どもからの質問で、「それはトップダウンで始められたのですか?」との問いに、明確に、「そうではなく内部から起こってきたもの」と、その部分を詳細に解説してくださいました。その背景には、上記に述べたとおり、住民との協働、その前提としての情報の共有ということが強く意識されていたことがあり、おそらくは、失礼ながら、行政マンが内部で行革を唱えたにしても、ここまでつまびらかにする施策は必要と感じても実現させようとは決断できなかったのではないでしょうか。
行革という、役所内部での作業が、そのまま市民との協働とリンクされている点は、わが市も大いに参考にすべきところだと思います。結局のところ、行革というものもそもそもは市民のためであるという観点に立脚すれば、この発想はスムーズに導かれるものと言うべきかも知れません。ひとつのものごとを構築するのに、それが何のため、誰のためであるかを明確にしたときに、より目標や理念に近い方策が組み立てられるものなのでしょう。
ところで偶然にも、出水市の職員削減目標も丸亀市と同じ980人という数値であるのに親近感を覚えました。この数値を、ただ機械的に無機的に達成しようとするのでなく、「市民に満足いただく」という観点で臨んだときに、こうした方策がおのずから、無理なく、実現されるものなのだろうと思いました。
ぜひともわが市でも参考にしていただきたいものと思います。
○市長と若手職員との意見交換会 鹿児島県出水市
1.経緯
市町合併から2年が経過した時点で、合併前の旧出水市で当時の市長が行っていたこ
の制度が再浮上した。
職員組合とのやりとりの中、市長との意見交換の場を、との声が出た。職員の中には、
市長の顔と名前しか知らない職員も多い。特に旧町の職員に顕著であった。
市長もこの制度のスタートを快諾。さっそく実施されることになった。
2.交換会の進め方
・年齢35歳までの職員、約130名のうち、年6回開催する中で参加できる職員を対象と
する。
・幹部側の出席者は市長のほか総務担当副市長、事業担当副市長、教育長、政策経営部
長(出水市は現在副市長2名制)
・19年度秋からスタート。6回開催の予定だが、視察時点では4回終了。
11/19 午後4時から 13人出席
テーマ:勤務体制、業務改善、人事評価など
11/26 午前10時から 11人出席
テーマ:食育の実施、子育て支援 (以下略)
・テーマに沿った意見交換、必ず全員が発言するように心がける。
・テーマは職員側から出す。人選も若手職員に一任。
3.実施してみての実際
・初めての試みなのでどうしても職員が身構える。開催日が近づくと皆緊張する。
・予め準備した書面を読み上げることに終始しがちで、これは問題。
・しかし、市長に提言するために職員が夜、勉強をする姿が見えてきた。
・実際、支所の人員半減に対するサービス低下対策としてグループ制導入(実現)、
新幹線工事で湧出した水で「出水」をPR、など、建設的な提言が見られる。
・出された提案は実行に向けて、受け止める。全庁に公表し、政策に反映させる方策を
とる。
・市長はこの制度の拡充に意欲的で、今後は外局の職員にも対象を広げていく意向。
4.感想
「視察いただくほどのことでもありませんが」と、説明者は冒頭、恐縮されておりました。そうかも知れませんが、私どもはぜひ丸亀市でも、何らかの形でこうした意見交換の場を実現してもらいたいと願うことから、どのようにして実現させるか、その過程に強い関心を抱いております。
全国各地でも、スタイルは異なっても同様、類似の制度を持っている市が散見されます。それは市の施策ともいえず事業ともいえないかも知れませんが、これは大事なことであり、その成否は市政に大きく影響するだろうと思えてなりません。若手職員育成ということで言えば、それは今年、来年に効果が期待できるというよりも、職員の勤務に対する態度、姿勢にも影響を及ぼすものとして、将来への大きな投資とも言えるものだと思います。
その上で、上記に紹介した具体的な職員提案には直ちに実行可能なもの、現場ならではの知恵に基づくものなど注目に値するものが多くあります。
前記「部局経営方針」の項では、行革に「市民のため」という観点が入ったときに同制度が実現を見た、と書きましたが、この若手職員と市長との意見交換という制度もまた、「市民のために仕事をしている」という観点を幹部と現場職員が共有するからこその発想が具現化されたものということができましょう。単なる自分の職場の改善要求といったものに止まることなく、職員はその日に向けて勉強をし、ちゃんと準備を重ねた上で、問題提起をしているとのこと。それは言うなれば、自分のクルマが「走ればいい」と考えている持ち主と、少しでも快適にとエンジンやインテリアにこだわる持ち主との違いではないでしょうか。5時まで座っていて、ともかく給料になればいいと考える職員と、自分の知恵で何とか市民に貢献をと工夫に挑む職員とでは、今流行の「クオリティ・オブ・ライフ」というものも、生涯で天地の開きが出てくることでしょう。
若手職員にとっては市長というトップの存在はなるほどまことに遠い存在だと思います。
私(内田)自身、かつて市役所に勤務していたときに、吹奏楽団の存続が問題となったときに市長自ら懇談の席を設けてくださり、「不況の時代だからこそ音楽で元気を」と要請され、楽団廃止の危機を脱した経験があります。一方的なトップダウンでなく、親しく懇談を重ねる体験は、それだけで職員のモチベーションを高めることはもちろん、職員の力量発揮に計り知れない可能性を開くものかも知れません。
かつてわが丸亀市長も、各職場を訪問され、職員に向かってお話をされるということをなさったと聞いております。けれどもそれはトップからのいわば「訓示」的な受け止められ方に終わったのではないでしょうか。そのように聞き及んでおります。
これを一歩発展させ、双方向の語らいの場を。市長に、このことを提言させていただくとともに、側近幹部の皆さんにおかれても、戦略としての市長と職員との意見交換の場の設定を、トップに建策いただけるよう強く願っております。